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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

2024年(進行中)

2024年
コスモス1月号

「集中の邪魔をするのが思考だ」とヨガの先生きつぱりと言ふ

瞑想の無我の境地に入れずに窓の汚れが気になつてゐる

(温泉の素)の緑がバスタブに拡がりてゆく朝の浴室

白萩の花びら零し通り過ぐ少し冷たき十月の風

蜂の来てとまれば暫し揺れやまず舞ひたちさうな白萩の花


コスモス2月号

前後から護られながら昇りたり水上飛行機の揺れるタラップ

小型機を旋回させてパイロットが「ほら、鯨だ!」と海を指さす

月例のズーム歌会に参加する 林の中のバンガローより

大杉の林を渡る風音の鳴りやまぬまま夜の明け初む


3月号

よし、今日はきつと元気に過ごせるぞ 中級数独五分で解けた

朝の陽に女男の銀杏が輝けり大宮八幡本殿の前

玉砂利に散りかかりゐる銀杏の葉作務衣の人が掃き集めをり

波音のやうなリズムで届き来る作務衣の人の箒の音が

自販機の〈あったか~い〉茶をごろりんと出して飲まずに懐に抱く



4月号  福袋

薄氷(うすらひ)が朝日を反し輝けり銀杏落葉を閉じ込めしまま

渇筆に気息こもれり禅寺の掛け軸に見る大き〈無〉の文字

季節には少し早めの蝋梅がほつほつと咲く墓地の陽だまり

きりたんぽを餅に見立てて作りたり夫と二人の今年の雑煮

ひさびさに日本で過ごす正月を福袋でも買ひに出やうか




5月号

治癒の見込み無き病人の安楽死 カナダではもう許されてあり

「安らかに医学の力で逝きました」夫君の最期を伝へるメール

夫君との最後の二十四時間を支へに生きると友はうつむく

雪霽れて澄みたる空を背景に高く咲きたり丘の白梅

そこここに雪の残れる梅林に紅八分咲き白は五分咲き

通路には筵を敷きて梅林に梅まつりへの準備が進む

ふるさとの丘に拡がる梅林を同級生とゆつくり歩く



6月号

漏水被害修復中のマンションを逃れて今日より仮住まひする

1LDK漁港に近き仮住まひ遊歩道まで七歩で行ける
 
港より望む中州の裸木のそこここにあり大き鳥の巣

強風と上げ潮に立つ逆波を凍れる月が銀に照らせり

雨霽れて月夜の港を次々に出でゆく漁船のモーターの音

文字通り〈空も湊も夜は霽れて〉小学唱歌のままの情景

あけぐれの浮き桟橋にぢつと立つ釣り人二人 犬を従へ



7月号

テキサスの息子の家に押しかける 皆既日蝕見たきばかりに

私にはこれが最後のチャンスなり 皆既日蝕見逃すものか

朝よりの雨が俄かにあがりたり日蝕開始一時間前

だんだんにあたりが暗くなりはじめ黒猫の目がきらりと光る

太陽がすつぽり隠れる一瞬に息をするのを忘れてしまふ

黒き空の黒き太陽縁取りて白きコロナがくつきりと浮く

皆既蝕のコロナの白の数か所に赤き光がちろちろ動く






武蔵野支部歌会

1月  冬の陽の眩しさを今日の恵みとし黄葉降り来るトレイルを行く

2月  海豹が目を丸くして見あげたり浮き桟橋の上の私を

3月  好きなだけ何でも食べよと言ひましぬ声も体も大きな主治医

4月  常よりも筆圧高き字になりぬ尊厳死願う署名せしとき



東京歌会

1月  褐筆に気息こもれり亡き人の健やかなりし日々の作品



GUSTS

To put an end
to his two years suffering,
he chose MAID
spending his last 24 hours 
talking quietly with his wife

“He was brave”,
his wife said,
“so well prepared
for the final day,
…… as if he was not scared

“The real cause
of his death”, his wife said,
“is the fact
that he was born”
……  yes, of course, but…

(Note: MAID=Medical Assistance In Dying)


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